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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)47号 判決 1999年3月30日

東京都台東区鳥越二丁目一一番一一号

原告

松井君江

東京都台東区鳥越二丁目一一番一一号

原告

池田澄

東京都台東区鳥越二丁目一一番一一号

原告

松井義朋

右三名訴訟代理人弁護士

島津秀行

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被告

浅草税務署長 近藤吉輝

右指定代理人

加藤裕

本田敦子

井上良太

上出宣雄

上賢清

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告らに対し、それぞれ平成六年八月四日付けでした、平成四年一一月八日相続開始に係る原告らの相続税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分(ただし、いずれも平成九年一二月一〇日付け裁決により一部取り消された後のもの)は、原告松井君江及び原告池田澄につきそれぞれ納付税額四七七万七一〇〇円を超える部分、原告松井義朋につき納付税額八八一万九二〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、相続税の申告に係る財産のうち分譲マンションの敷地として賃貸されていた別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の評価額が高額だったとして、被告に対し、更正の請求をした原告らが、被告から更正すべき理由がない旨の通知を受けたため、その取消しを求めるものである。

第三争いのない事実等

一  当事者等(甲第一号証)

原告らは、平成四年一一月八日に死亡した松井春吉(以下「亡春吉」といい、同人の死亡に係る相続を以下「本件相続」という。)の相続人である。

二  本件土地の利用状況(乙第一、第二号証)

1  昭和四四年九月一日、亡春吉は、株式会社ヤマゴに対し、本件土地を、以下のとおりの約定で賃貸した(以下「本件借地契約」という。)。

(一) 目的 堅固建物の所有

(二) 期間 六〇年間

(三) 賃料 一万七一五七円(月額)

(四) 特約

(1) 亡春吉は、本件土地上に株式会社ヤマゴが建築する建物のうち三階以上の居住部分を株式会社コヤマが一括して買い取り、建物の区分所有等に関する法律に基づいて第三者に転売することを認める。

(2) 亡春吉は、右建物の区分所有者となった者が本件土地の借地権の準共有持分を建物と共に転売することを株式会社ヤマゴを介して文書により承諾を求めたときは、前記(二)の期間内に限り無条件に承諾する。

(3) 株式会社ヤマゴがその所有する本件土地に係る借地権を譲渡するときは、亡春吉の承諾を得なければならない。

2  昭和四五年九月二八日、株式会社ヤマゴは、本件土地上に鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付八階建(延床面積一四八三・二三平方メートル)の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、そのうち三階以上の居住用マンション一四戸に相当する部分の区分所有権及び借地権を株式会社コヤマに譲渡し、株式会社コヤマは、これを分譲した。

3  本件相続開始日現在、本件建物には分譲された一四戸のマンションの区分所有者(一名で二戸を所有している者と、一戸を二名で共有している者がいる。)とそれ以外の部分(地下一階、一階及び二階)の借地権者二名が存在した。

三  本件訴訟に至る経緯等(甲第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、第九、第一〇号証、第一四号証、乙第一号証)

1  原告らは、本件相続に係る相続税の申告期限内である平成五年五月一〇日、別表一ないし三の各<1>の項記載のとおり本件相続に係る相続税の申告を行った。

なお、本件相続に係る相続財産中には、本件土地が含まれており、原告らは右申告の際に、本件土地を財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日直資五六、直審(資)一七。以下「評価通達」という。)に基づき借地権控除方式(更地価格から借地権価格としてその七割を控除する方式)によって一億二七二八万 〇〇九五円と評価していた。

2  平成五年八月二四日、原告らは、本件土地の面積等について誤りがあったとして、本件土地の価格を評価通達に基づいて一億二一三五万二二七二円(五九二万七八二三円減額)と評価し、また、他の土地の面積について誤りがあったとして当該土地に係る当初申告における評価額を七四万六二五五円増額し、また、有価証券の一部に評価漏れがあったとして当該有価証券に係る当初申告における評価額を二八〇万三八一八円増額して別表一ないし三の各<2>の項記載のとおりの更正の請求を行った。被告は、右更正の請求を理由あるものと認め、別表一ないし三の各<3>の項記載のとおりの減額更正を行った。

3  さらに、原告らは、本件土地の評価を評価通達に基づき借地権控除方式で行ったのは誤りであり、本件土地の価額を過大に評価していたとして、平成六年五月六日、不動産鑑定士森田義男作成の鑑定評価書(甲第九号証。以下「原告鑑定」という。)に基づき、本件土地の価額を二〇〇〇万円と評価して、被告に対し別表一ないし三の各<4>の項記載のとおり更正の請求(以下「本件更正請求」という。)を行ったが、被告は、同年八月四日、原告らに対し、原告らの本件更正請求は理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)をした。

4  原告らは、本件通知処分を不服として、平成六年八月一九日、別表一ないし三の各<6>の項記載のとおり異議申立てをしたが、右申立ては同年一一月一五日棄却された。原告らは、これを不服として、同年一二月一二日、国税不服審判所長に対し審査請求を行った。

5  国税不服審判所長は、本件土地については、本件建物の敷地として昭和四四年九月一日から六〇年間(平成四一年八月三一日まで)の借地権が設定されていること、借地権者が一六名いること、本件建物の三階部分以上の分譲マンションの区分所有者から借地権の準共有持分の譲渡に関する文書による承諾依頼があった場合には、賃貸人である亡春吉は契約期間内に限り無条件に承認すべきとされていることといった一般の賃貸土地と異なる事情がある点にかんがみ、本件土地の評価額の算定を評価通達に基づいてしないこととし、本件土地の評価額の鑑定を財団法人日本不動産研究所に依頼し、同研究所による、本件土地の鑑定評価額三〇〇〇万円(以下同研究所による鑑定を「被告鑑定」といい、被告鑑定による本件土地の評価額を「被告鑑定評価額」という。)をもって本件土地の時価と認定し、本件相続に係る課税価格及び原告らの納付すべき相続税額を、次のとおり算出し、平成九年一二月一〇日、別表一ないし三の各<9>の項記載のとおり本件通知処分の一部を取り消し、その余の原告らの請求を棄却する旨の裁決をした。

(一) 課税価格

本件相続に係る取得財産の価額は別表四の<1>ないし<6>記載のとおりであり、その合計額を一億九一六一万七七三四円(別表四の<7>)と、債務等の金額(別表四の<8>)の合計額を四〇二万〇九三二円(別表四の<9>)と認め、取得財産の金額の合計額から債務等の額の合計額を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項を適用して一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた一億八七五九万六〇〇〇円(別表四の<11>)を課税価格とした。

(二) 納付すべき税額

前記課税価格一億八七五九万六〇〇〇円から遺産に係る基礎控除額七六五〇万円(別表五の<2>)を控除して算出した課税遺産総額一億一一〇九万六〇〇〇円(別表五の<3>)に原告らの法定相続分(別表五の<4>)を乗じて算出したそれぞれの法定相続分に応じた取得金額三七〇三万二〇〇〇円(別表五の<5>)に平成六年法律第二三号による改正前の相続税一六条を適用して相続税の総額を二〇八七万四〇〇〇円(別表五の<6>)と算出し、これに原告らそれぞれの相続税の総額のあん分割合(別表五の<7>)を乗じ、通則法一一九条一項を適用して一〇〇円未満の端数を切り捨て、原告らの納付すべき税額を別表五の<9>記載のとおり、原告松井君江について五一三万八三〇〇円、原告池田澄について五〇五万二二〇〇円及び原告松井義朋について一〇六八万三三〇〇円と算出した。

6  原告らは、右裁決により棄却された部分に係る本件通知処分の取消しを求めて、平成一〇年三月一〇日、本件訴えを提起した。

第四争点及び当事者の主張

一  争点

本件の争点は、本件土地の評価方法、評価額の点のみであり、その他の相続財産の範囲、価額及び納付すべき税額の算出方法は当事者間に争いがない。

二  当事者の主張

(被告の主張)

被告鑑定においては、本件土地の更地価格六億一〇〇〇万円から借地権価格(更地価格の七割)四億二七〇〇万円を控除した一億八三〇〇万円を借地権控除方式による価格と算出した。

また、金融市場において最も一般的と思われる投資の利回りを標準に、評価対象不動産の投資対象としての危険性、流動性、資産としての安全性、将来の賃料改定の可能性等を総合的に考量して、本件土地の還元利回りを三・五パーセントとして評価し、本件相続開始時の本件土地に係る実際の支払賃料年額一六二万八一〇〇円から必要諸経費として平成四年度分の固定資産税及び都市計画税の合計額六四万三三〇〇円を控除した九八万四八〇〇円を還元利回り三・五パーセントで除した二八一〇万円を本件土地の収益還元法による価格として算出し、本件土地に設定されている借地権と本件土地(底地)の所有権とを併合する可能性が低いこと、当分の間は名義書換料、建替承諾料等の授受も期待できないこと、借地権と底地は別々の市場を有していること等を考慮して、収益還元法による価格二八一〇万円を重視し、借地権控除方式による価格一億八三〇〇万円を比較考量し、さらに、平成二年以降地代が据え置かれており、今後値上げの可能性も見込まれることを総合考慮して、被告鑑定評価額を三〇〇〇万円としたものであり、被告鑑定の内容及びそれに基づく被告鑑定評価額は合理性を有するので、被告鑑定評価額をもって本件土地の相続開始時の時価と認定した。

(原告らの主張)

1 借地権控除方式は、借地権者が底地を買い取る場合のように借地権と底地とが一体化して完全な所有権になる場合の限定価格を求める方式であり、不特定多数当事者間での自由な取引を前提とする正常価格ではなく、また、相続財産の評価として右の完全な所有権価格を論ずるためには、相続開始時にその旨の合意が地主と借地権者との間に成立していることを要するものである。

したがって、借地権控除方式を正常価格の評価方法とすることは誤りであり、また、完全所有権化への合意が成立していない事案について借地権控除方式をとることは違法である。

2 本件土地は借地権付きの分譲マンションの底地であり、その借地権者の数は一六名に及び、底地価格の形成要素のうち、更新料又は承諾料等の将来の一時金収入を期待することはできず、また、将来借地権と一体化して完全所有権に復帰する経済的利益も期待できないから、本件土地の購入の動機は主として地代収入を得ることにしかないというべきであり、本件土地の評価は、収益還元法をベースにして行われなければならない。

本件借地契約の期間内には本件土地につき完全に所有権が復帰する可能性はなく、被告が主張する本件借地契約の終了直後にこれが実現した場合を想定して、借地権控除方式による評価額一億八三〇〇万円に複利現価(三七年間六パーセントとして)〇・一一六を乗じて現在価値を算定すると二一二三万円にしかならない。ところが、被告鑑定では、借地権控除方式による評価額一億八三〇〇万円を収益還元価格による評価額と対等の関係で採用して本件土地につき完全に所有権が復帰する時期を考慮しておらず、試算価格の調整の際にも借地権控除方式による価格と潜在価値との関連は何ら説明されていない点で、鑑定評価理論から違背している。

3 被告鑑定は、収益還元法の適用に当たって三・五パーセントの還元利回りを適用しているが、本件土地の最大の特徴である流動性が無いという個別性を反映させるなら、還元利回りは少なくとも五パーセントを選択すべきである。なお、被告鑑定か還元利回り決定に当たって「賃料改定の可能性」を論拠としているが、地価や景気の動向を考えれば、今後は賃料の値上げは期待できず、「賃料改定の可能性」は還元利回りを大きく動かすほどの要素にはなり得ない。

4 被告鑑定は必要諸経費を公租公課しか計上しておらず、安易であり、これにより導かれた収益価格の信頼性を大きく揺るがすものである。

5 被告鑑定は、取引事例比較法による試算価格の算定を放棄しており、また、試算価格の調整において、収益還元法による価格を原則としながらも将来における賃料改定の可能性を論拠として借地権控除方式による価格を考慮しているが、この点は、収益還元法における還元利回り決定の際に考慮されている点を二重計上するものである。

6 これらの問題点がない原告鑑定に係る鑑定価額二〇〇〇万円が本件土地の時価というべきであり、被告鑑定評価額三〇〇〇万円はこれを上回ってる。

第五争点に関する判断

一  相続税の申告書を提出した者が、その後に、右申告書において申告した課税価格が過大であったとして、更正の請求をし、その理由がないとする通知の取消しを求める場合には、右申告書に記載された課税価格等が真実の課税価格等に反するものであることを当該申告者において主張、立証すべきものと解されるから、原告らが申告書に記載した課税価格が平成五年一一月一日付けの更正により減額された課税価格よりも低額であることは原告らにおいて立証すべきものである。

ところで、本件土地については、その特殊性のゆえに被告においても評価通達によらない評価をしており、本件土地の価格については原告鑑定と被告鑑定が提出されているところ、原告鑑定は収益還元法を基礎とし、また、被告鑑定も収益還元法による価格を重視し、借地権控除方式による価格は比較考量するに止めているので、以下では、原告鑑定を中心とする原告立証の成否を検討し、あわせて被告鑑定の内容を検討することとする。

二  鑑定内容の検討

1  証拠(甲第八号証の二、乙第三号証)及び弁論の全趣旨によれば、還元利回りとは、不動産の収益性を表し金融市場における利子率と密接な関連性を持っているものであり、不動産鑑定評価基準(以下「鑑定評価基準」という。)によれば、国債、公社債及び長期預金等の一般的な投資の利回りを標準とし、その投資対象としての危険性、流動性、管理の困難性、安全性等を総合考慮して求めるものとされているものであり、社団法人日本不動産鑑定協会では、平成二年から平成五年までの地価公示に係る土地の標準還元利回りの指標が三パーセントないし五パーセントの範囲であり、その範囲で、地域別、用途別等の個別性を加味するともに、地域における価格バランスに留意する旨の内容の資料を、作業に従事する不動産鑑定士に提供していることが認められるところ、証拠(乙第一号証)によれば、被告鑑定においては、賃料差額還元法において、本件土地の期待利回りを三・〇パーセントとし、収益還元法における還元利回りについては、金融市場において最も一般的と思われる投資の利回りを標準に、評価対象不動産の投資対象としての危険性・流動性、資産としての安全性、将来の賃料改定の可能性等を総合的に考量して、三・五パーセントとしていることが認められ、右各事実によれば、原告らの主張する本件土地の流動性の低さについては、還元利回りを期待利回りよりも〇・五パーセント高くすることで評価しているものと推認でき、これは、鑑定評価基準や右還元利回りに係る指標についての一般的考え方に沿ったものということができる。これに対し、証拠(甲第九号証)によれば、原告鑑定においては、「対象地の個別性(とりわけ、投資対象として流動性が大幅に欠ける点)を総合的に比較考量した結果、土地としてはやや高めの五%を採用した。」とされていることが認められるが、右原告鑑定の記載からは、本件土地の流動性が大幅に欠けていることを考慮して、前記指標の上限である五パーセントを採用したものであることは推認できるものの、原告鑑定において、他の要素につき考慮の対象としたのか否かは明らかでないのであるから、原告鑑定の存在をもって、直ちに、被告鑑定が採用した還元利回りが不合理であるとはいえず、他に本件土地に係る還元利回りが三・五パーセントを超えなければ、適正な鑑定方法ではないと認めるに足る証拠はない。以上によれば、この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

2  また、原告らは、被告鑑定につき必要諸経費を公租公課しか計上していない点が非現実的であると主張し、証拠(甲第九号証)によれば、原告鑑定においては、更に地代収入の三パーセントが必要経費に加算されていることが認められる。しかし、地代収入を得るための必要経費が公租公課以外にも存する場合は想定することができるが、これが一般的に三パーセントであることを認めるに足る証拠はなく、また、原告らが指摘する点を見ても、本件土地の管理費が実際に発生したというものではなく、地代の滞納及び貸し倒れについても本件において具体的に発生の可能性が高いことをいうものではなく、一般的な発生の可能性について述べるに過ぎないから、本件土地についての具体的な鑑定評価である被告鑑定の合理性を覆し、地代収入の三パーセントを必要経費に加算した収益還元価格が本件土地の時価であると認めるには足りないというべきである。

3  原告らが被告鑑定について主張する点について検討する。

(一) 原告らは、借地権控除方式は正常価格ではなく、限定価格の一つであるとし、かつ、完全所有権化の合意が成立している場合のみに成立する価格であるとするが、底地取引が行われ得る場合には、現に底地買取等の合意が成立していなくとも、借地権を控除した経済的価値を観念することができるのであるから、原告らの右見解を採用することはできない。

(二) 原告らは、本件借地契約の期間内には本件土地につき完全に所有権が復帰する可能性はないところ、借地権控除方式による評価額を収益還元法による評価額と対等の関係で採用している点等で、被告鑑定の内容は、鑑定評価理論から違背していると主張する。

確かに、本件土地が本件建物の底地であって、完全な所有権に復帰する可能性が相当低いことは当事者間に争いのないところであるが、証拠(乙第一号証)によれば、被告鑑定は、被告鑑定評価額決定に当たり、収益還元法による価格を重視し、借地権控除方式による価格を比較考量の対象としているにすぎないことが認められるのであって、原告らが主張するように、右両価格を対等の関係で採用したものでないことは明らかというべきである。そして、借地権の取引慣行が成熟している地域における底地の評価において、将来借地権が消滅して完全な所有権に復帰することによる当該土地の最有効使用の実現の可能性、市場性及び担保価値の回復による経済的利益を一定程度加味することは一般的合理性を有するということができ、証拠(乙第一号証)によれば、本件土地の存する地域においては借地権の取引慣行が成熟していることが認められる。そして、本件土地の借地権者の数が一六名と分譲マンションとしては比較的少数であり、すべての借地権を取得する可能性もわずかながら残っていること、個別の借地権者に対する底地権買い取りの交渉も可能であること、本件建物の建替え等に当たって本件建物の所有者である借地権者らが共同して本件土地の所有権を取得するという事態も想定可能であること等からすれば、本件土地について借地権控除方式による価格を考慮することが不合理であるとはいえず、また、本件借地契約が存続している期間は完全な所有権が復帰しないともいえないから、被告鑑定において、収益還元法による価格二八一〇万円を重視しつつ、借地権控除方式による価格一億八三〇〇万円を比較考量する等して本件土地の時価を三〇〇〇万円と認定したことが合理性を欠くと認めることはできない。

(三) 原告らは、被告鑑定が取引事例比較法による試算価格を算定していないことを問題とするのでこの点について検討する。

そもそも取引事例比較法の性質からして、同方式による試算価格の算出が有効なのは、当該鑑定対象となる土地と比較して相当の類似性のある土地について、特別な事情が介在しない通常の取引(又は補正可能な範囲での特別な事情が存在する取引)が存在する場合に限られるから、本件土地の鑑定評価に引用できる相応しい取引事例が存在しない場合には、取引事例比較法による試算価格が算定されないのは当然である。そうすると、本件土地の鑑定評価に引用できる相応しい取引事例の存在を前提とすることなく、被告鑑定が取引事例比較法による試算価格を算定しないことのみを理由として被告鑑定の合理性を批判する原告の主張は失当というべきである。なお、証拠(甲第九号証)によれば、原告鑑定では、取引事例比較法による試算価格を算出しているが、その際、原告鑑定では、本件土地のような借地権者が多数に及ぶ分譲マンションの底地取引の事例が存しないことを前提とし、単独借地権者であり、かつ、借地上の建物が非堅固建物である底地を「標準的底地」と想定し、それにつき求めた比準価格に三分の一を乗じて本件土地の比準価格を求め、その結果については、「対象地の有する特殊事情が反映された取引ではなく、その個別性の判定には普遍性の面にやや難点を有する。」として、鑑定評価額決定に当たっては採用していないことが認められるのであるから、原告鑑定が取引事例比較法による試算価格を算出していることから、直ちにそれを採用しなかった被告鑑定が合理性を欠くものということができないことは明らかである。

(四) また、原告らは、被告鑑定が試算価格の調整において将来の賃料改定の可能性を考慮しているのは、収益還元法における還元利回りの決定の際に考慮した事項について二重に考慮するものであると主張するが、証拠(乙第一号証)及び弁論の全趣旨によれば、被告鑑定は、還元利回りの決定の際には将来の賃料改定の可能性について困難が伴うという消極的な面について考慮したものであり、他方、試算価格の調整においては今後の賃料の値上げの可能性が見込まれるという積極的な面について評価したことが認められるから、この点に関する原告らの主張も当たらないというべきである。

三  以上によれば、原告鑑定及び被告鑑定は、いずれも不動産鑑定士によってされたものであり、それぞれの合理性を有するものということができるが、原告鑑定によって、被告鑑定の結果を覆し、本件土地の本件相続開始時の時価が三〇〇〇万円を下回ることを認めるには足りず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、被告鑑定の内容を検討すれば、本件土地の時価を三〇〇〇万円としてされた本件通知処分に違法はないというべきである。

第六結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別紙

物件目録

所在 台東区寿一丁日

地番 一三番五

地目 宅地

地積 三六三・八二平方メートル

のうち別紙図面において赤線で囲った二九六・三三平方メートルの部分

別紙図面

<省略>

別表一

本件通知処分等の経緯(原告松井君江)

<省略>

別表二

本件通知処分等の経緯(原告池田澄)

<省略>

別表三

本件通知処分等の経緯(原告松井義朋)

<省略>

別表四 課税価格等の計算明細表

<省略>

別表五 相続税額の計算明細表

<省略>

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